心理学といえば、フロイトやユングが有名ですね。
現在は、学問として私たちは心理学を学ぶことができます。
そして、心理学を応用してビジネスや恋愛のテクニックとして使われることもあります。
では、心理学はいつできたのでしょうか。
心理学の誕生について紹介します。
心理学の「誕生」と「どのようなもの」だったのか
一般に「心の科学」としての心理学の創始者は、ヴント(W.ヴント 1832-1920)だと言われています。
ヴントが、世界で最初に心理学の実験室を作り、心に関する科学的な研究を始めたから、ヴントが心理学の創始者と言われています。
心理学の誕生の背景と、ヴントの心の研究について紹介します。
ヴントについて
ヴントは、高校時代までは学校嫌いの落第生だったそうですが、猛勉強の末、大学の医学部に合格し、医学博士になりました。
もともとの専門は生理学で、19世紀を代表する生理学者ヘルムホルツに師事しました。
しかし、当時、生理学が徐々に衰退していたため、より前途有望な哲学に転向し、ライプチヒ大学の哲学教授に就任しました。
生理学から哲学への転身によって、生理学の手法とヴントの哲学的関心とが結びつき、心理学が科学として独立する流れを作りました。
心理学の誕生の背景
人間の「心」については、古代からずっと中世・近世にかけて、哲学者たちによって研究されてきました。
近世の哲学の主要なテーマの一つに「認識論」でした。
認識論は、「人間はいかにして正しい認識に到達するのか」を解明することでした。
この認識論の系譜の一つはフランスのデカルトに代表されるヨーロッパ大陸の「合理論」です。
人間は生まれつき備わっている理性の働きによって正しい認識に到達できるのだと考えました。
一方、イギリスでは「経験論」でした。
心は白紙のようなもので、人間は生後の経験の積み重ねによって認識に必要な知識を獲得するものだと考えました。
しかし、哲学者たちが書斎の肘掛け椅子に座って考えた思弁的なものだったので、「肘掛け椅子の心理学」と呼ばれていました。
19世紀になると自然科学が発展し、特に生理学や物理学が発展して、実験的手法によって新しい事実が次々に発見されました。
発展した生理学や物理学の実験手法を用いて「心を科学的に研究しよう」という流れができました。
この時代背景の中、ドイツのライプチヒ大学の哲学教授ヴントのもとに、人間の心を科学的な手法によって研究しようと科学者や哲学者が集まりました。
1879年に、ヴントは「精神内容を観察・分析することによって新しい心の科学を構成できる」という考えを実行するために、世界で最初の心理学の実験室を作りました。
ヴントの心理学はどのようなものだったのか
ヴントは人間を外側から研究するのが生理学で、内側から研究するのが直接経験の科学としての心理学なのだと考えました。
心理学の研究対象は直接経験としての「意識」で、意識は「内観法」という方法で研究できると考えたのです。
心の内面を観察する「内観法」
ヴントは心的要素をどう結合するのか知るために、実験参加者に対してさまざまな刺激を与え、その瞬間意識した内容を伝えてもらう方法で調査を行いました。
この調査の方法が内観法と呼ばれています。
内観法によって意識を観察・分析することによって、心の要素は「純粋感覚」と「単純感情」だとして、これらの要素が複合する仕組みを明らかにしようとしました。
また、複数の要素を1つのまとまりとしてとらえようとする機能が人間の心にはあると考え、統覚と呼ばれています。
ヴントが行った実験に「注意と感情に関する実験」があります。
実験参加者にメトロノームの音を聞かせ、それがどのように音のまとまりとして聞こえるのかを詳しく報告させ、自分自身も報告しています。
報告の内容は「あるリズムをもった連続音は、適当なまとまりの印象を与える。そして、特定のズムのパターンは、別のリズムのパターンよりも楽しく快く感じられる。また、メトロノームの音に期待をもって耳を傾けると、かすかに緊張が生じ、期待通りのメトロノームの音が聞こえると、開放感を感じる。さらに、メトロノームの速度が速くなると、わずかながら興奮を覚え、逆に速度を次第に遅くすると、落ち着いた感じになる」というものでした。
ヴントは、メトロノームの速度を変化させ、その音についての主観的体験を注意深く観察しました。
そして、人間の感情は、「快ー不快」「緊張ー弛緩」「興奮ー沈静」という3つの次元で構成されているとする感情の三次元説を提唱しました。
後にヴントの学説は、アメリカの心理学者ティチェナーによって構成主義心理学と名付けられました。
ヴントがもたらしたもの
ヴントは、実証科学としての心理学という新しい学問を生みました。
ヴントの心理学が世界に広まっていくにつれて、さばざまな角度からの批判がでてきました。
アメリカでは行動主義の心理学が盛んになり、内観法のような主観的な方法では、心理学は客観的な学問になり得ないという批判がでました。
また、ドイツではゲシュタルト心理学が盛んになり、意識を心の要素の複合ととらえるヴントの構成主義を批判しました。
さらに、オーストラリアではフロイトが精神分析で、無意識の重要性を主張しました。
ヴントの心理学から、批判する学派や学説がでてきて、心理学という学問の骨格が作られていって現在に至ります。
行動主義の心理学やゲシュタルト心理学、精神分析についてはこちらを参考にしてください。
日本での心理学の始まりは?
日本の心理学の創始者は、元良勇次郎といわれています。
ヴントに直接指導を受けたアメリカのホールのもとで、心理学を学び、1888年に帝国大学文科大学(現在の東京大学文学部)で「精神物理学」という科目を担当しました。
まとめ
人間の心については、古代から考えられていました。
そして、科学的に実証しようという試みはヴントから始まったとされています。
私たちは現在、たくさんの実験と検証で心の仕組みを知ることができるようになりました。
しかし、完全に証明できるとは言い難いです。
まだまだ私たちの人間の心は謎があります。
このわからないことが心理学を勉強する楽しさではないかと私は思います。
参考文献
「よくわかる心理学(やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)」
「史上最強カラー図解プロが教える心理学のすべてがわかる本」