心理療法のひとつに論理療法があります。
論理療法は、思考に着目する心理療法で、認知療法や認知行動療法の基本の理論にもなっています。
論理というと難しいイメージがあるかもしれません。
論理療法について、できるだけわかりやすく紹介します。
論理療法の特徴
論理療法は、心理療法のひとつであり、広い意味で認知行動療法のなかに位置づけられています。
人間の幸福および苦悩をもたらしているのは、その人自身がもっている考え方、すなわち論理と感情であるとういのが論理療法の考え方です。
論理療法の創始者のアルバート・エリス(Ellis,A.)は、過去がその人の人生を決定づけるのではなく、その経験を通してその人が作り上げてきた考え方、固定観念が、不安や罪悪感を喚起しさらに自己破壊的な行動へとつながるのだと語っています。
過去は変えることはできないが、そこで形成されてきた考え方、固定観念は変えることができるのです。
それこそが心理療法の目的であるとされました。
論理療法の要素
- 人間は自己・他者・外界に対してビリーフ(固定観念)をつくり、それを保持し続けるという生物学的傾向をもつ
- ビリーフは感情・行動ばかりでなく、認知・認知過程にも影響を及ぼす
- ビリーフによって自己を高めたり、目標達成を促進する感情や行動に影響する。
ところが、ビリーフによって自己破壊に導くような感情や行動に影響する。 - 自己破壊的な感情や行動に影響するビリーフを発見・修正することは可能である
- ビリーフの修正によって悩み(感情や行動)が気にならなくなる。
ABCモデル
人間の悩みの仕組みを説明するABCモデルと呼ばれているものがあります。
Aは、Activating Events のAです。
Bは、Beliefs のBです。
Cは、Consequences のCです。
Aはきっかけとなる出来事のことで、Bは出来事によって形成されてきたその人なりの考え方です。
これが論理療法の中心概念です。
それは出来事に対する認知であり、なんらかの評価を含んでいます。
CはBの結果としての感情や行動のことをいいます。
ABCモデルを用いることで、クライエント(相談者)は自分自身でその情緒的混乱の原因を発見でき、カウンセラーは効果的な介入の手がかりを得ることができるといわれています。
私たちは普段、原因となる出来事や結果に注目しがちですが、ABCモデルを使うことで、私たちの悩みの中心がビリーフ、その固定観念であることに気づかされます。
私たちは固定観念にとらわれている限り、その固定観念自体を客観視することは難しいですが、ABCモデルをイメージすることで、固定観念を概念化し、客観的にとらえることができるようになります。
たとえば、「私は絶対失敗してはならない」という固定観念があるとします。
この固定観念こそが不安や自己破壊的な感情を誘発するものであり、心理治療の対象となります。
固定観念を打破することが論理療法の考え方になります。
論理療法の歴史
論理療法の創始者のエリスは、コロンビア大学で臨床心理学の博士号を取得後、ニュージャージー州でサイコロジストと勤務しながら、論文を書き続ける日々を過ごしています。
この時期、エリスは精神分析家から6年間にわたる教育分析を受けています。
この教育分析はエリスが時計ばかり気にして強迫的に仕事をする「時間ノイローゼ」の克服に役だったそうです。
当時のエリスは、エリスの理論でいえば価値のある人間になるためには目標を達成しなければならないというビリーフにとらわれていました。
教育分析のよって人生は有限であり、やりたいことが全部できるわけではないことに気づき、自分自身の限界を受け入れることができるようになったそうです。
この体験からエリスは、精神分析よりも効率的で効果的な方法の必要性を感じ、1955年に「心理療法の技法への新しいアプローチ」を論文として発表しています。
これが、論理療法の出発点です。
論理療法は、1950年代後半から注目されるようになり、1962年にエリスは「心理療法における思考と感情」という本をまとめています。
この本には論理療法の起源と本質などが語られていて、現代の認知行動療法の古典ともいえる本といわれています。
やがて論理療法は1970年代のアメリカで注目を浴び、1980年代にはアメリカだけでなく、さまざまな国で影響力をもつようになっています。
まとめ
私たちは、生きていくなかでビリーフ(固定観念)ができていきます。
このビリーフが感情や行動に影響を及ぼしていると考えているのが論理療法です。
過去を変えることはできませんが、ビリーフは修正することも可能です。
客観的にとらえることができるようになるきっかけに論理療法はいかがでしょうか。
参考文献
「よくわかる心理臨床」
「アルバート・エリス 人と業績ー論理療法の誕生とその展開」
「論理療法ー自己説得のサイコセラピイ」