遊びで心を癒す心理療法「遊戯療法」とは

heart心理学

心理療法を受けるのは、大人だけではありません。
子どもが気持ちを表現できる遊戯療法について紹介します。

遊戯療法の本質

遊びは自己治癒の作用をもっています。
遊戯療法は、基本的にカウンセリングと同様に約束された時間と空間の枠において、子どもとカウンセラーとが出会い、遊ぶという構造です。
この構造について、カルフ(Kalff,D.M.)は「自由で守られた場」の重要性を強調しています。
自由で守られた場において、子どものこころに内在している自己治癒力、自己成長力が表現することができます。

カウンセラーには、自由で守られた場を保障する力が求められます。
アクスライン(Axline,V.M.)は、遊戯療法の基本姿勢について8つの基本原理を定めました。
遊戯療法における治癒的人間関係の本質を表しています。

遊戯療法8つの基本原理

  1. 子どもとあたたかい親密な関係を形成
  2. 子どもをありのままの存在として受け入れる
  3. 子どもが自分の気持ちをしっかり、自由に表現することができるように、おおらかな気持ちでつきあう
  4. 子どもが表現している気持ちを認知し、子どもが自分の行動の洞察を得るようなやり方で、その気持ちを反射する
  5. 子どもが自分で自分の問題を解決しえるその能力に深い尊敬を持つ
  6. 子どもの行動や会話を指導しようとしない、子どもが先導する
  7. 治療は緩慢な過程であり、治療者からこの関係をやめてはならない
  8. 治療が現実の世界に根をおろし、子どもにその関係における自分の責任を気付かせるのに必要なだけの制限を設ける

出典:アクスライン, 1972, p.95

8番目の原理の治療に制限を設けるところの部分「治療が現実の世界に根をおろし、子どもにその関係における自分の責任を気付かせるのに必要なだけの制限を設ける」が重要です。
「自由で守られた場」は、けっして無制限であることはできません。
私たちが制限を設定するのは、制限内において自由と守りを確実に保障するためです。
この枠内において、子どもたちは安全に、自由に、主体的に活動する経験をもち、自我の成長が生じます。

そして、遊戯療法には具体的な約束事があります。

遊戯療法における約束事

  1. 決められた時間にー50分から1時間
  2. 決められた場所でープレイルーム
  3. プレイルームや備品を故意に壊さない
  4. カウンセラーに対する許容水準を超える暴力は許さない
  5. プレイ中は飲食しない
  6. プレイルームに物を持ち込まない
  7. プレイルームの物を持ち帰らない

※特別な事情により、約束事を破るときには、カウンセラー自身が自らの責任で遊戯療法の枠組みとして機能する覚悟が求められる

遊戯療法の始まり

子どもたちは、なんらかの問題を抱えて遊戯療法を受けます。
親が子どもの症状や問題行動を修正しようと連れてきます。
しかし、多くの症状や問題行動は、子どもたちのこころが、なんらかの圧力を受けて本来の在り方を抑えられてしまっているときに出現します。
それらが子どものたちからのSOSであることを認め、こころの表現を症状と異なる方法で表現することを可能にする場を提供し、受けとめるのがカウンセラーの存在です。

事例:集団場面で話さない幼稚園児のA

Aはプレイルームでも身体を硬くして、足音を立てないように静かに歩き回る。
しかし、あるとき、おもちゃのラッパをすばやく手に取り「プ・プー」と吹き鳴らした。
やがて回を重ねるにつれて、Aの動きがスムーズになり、エア・ピンポンのじょうご型のラケットに、ミニチュアのおもちゃをいっぱいに詰めて、スイッチを押しておもちゃを飛ばす遊びが始まった。
Aの内には、激しい感情が詰め込められており、これを懸命に抑えるためにAの口は堅く閉ざされていたのだろう。

大人の心理療法は一般的に言語を用いるのにたいして、遊戯療法は文字通り子どもたちの遊びをコミュニケーション手段とします。
遊びにおいて、子どもたちのこころに自発的に浮かび上がってきたイメージがいきいきと表現されるのです。
遊戯療法のカウンセラーは、非言語の表現、象徴化された表現を感じ取る感性が求められます。

遊戯療法の終わり

事例:小児病棟からプレイセラピーに通ってきた小学4年生のB

Bとカウンセラーは、プレイルーム中を走り回り、銃を撃ち剣を交えた。
Bは物陰に隠れたカウンセラーを追いたて打ちかかる。
弾をよけるために砂場にころげこむ。
カウンセラーも夢中になり「バキューン」と撃った途端、衝立の向こうからあっけなく「死んだ」という声が返ってきた。
「えっ、誰が?」
「僕が」
Bはすばやくヘルメットを脱ぎ、ガンベルトをはずすと、ガンダム人形を箱庭に埋めた。
「改造中」
そして、ビー玉をとり、半分だけ青く塗り「ビー玉改造」
退室したBは母親ににこやかに迎えられた。

遊戯療法の終焉期で死が演じられるとき、「これまでの自分」と決別し新しい自分に生まれ変わる儀式であることがあります。
これまでの遊びのなかで表現されてきたさまざまな感情の終焉です。
激しい感情がいきいきと表現されることの治療的な意味は大きいものです。

まとめ

遊戯療法は、言語ではなく非言語、遊びを通してコミュニケーションをする手法です。
だから、子どもに向いている心理療法といえます。

参考文献
「よくわかる心理臨床」

「カルフ箱庭療法」

「遊戯療法」