来談者中心療法は、カウンセリングで取り入れるカウンセラー(心理臨床家)も多い心理療法です。
来談者中心療法について紹介します。
来談者中心療法について
来談者中心療法は、1940年代カール・ロジャーズ(Rogers,C.R.)が生み出した人間の心の成長と変容をめざすアプローチ方法です。
ロジャーズは、カウンセラーが「真実さ・配慮・深く感受性豊かな、評価しない理解」をもってクライエント(来談者)と対話をもつとき、その関係の中で、クライエント自身の潜在力が発現することを、誰にでもわかる簡潔な言葉で表現しました。
その態度は、一般にカウンセリング・マインドと言われ、ロジャーズは、カウンセラーの基本的態度についてまとめています。
カウンセラーの基本的態度
- 個人の価値や意義を認め、尊重する:相手の人格を全体として受容する
- クライエント自身が自分の方向を決定する能力を信頼する:クライエント中心
- カウンセラー自身の自己理解:純粋性・自分自身を偽らないこと
このカウンセラーの基本姿勢は、日本でも多くのカウンセラーが受け継ぎ、カウンセリングを行っています。
クライエントの主体性や自己決定が重視され、心理療法が、クライエント自身の心理的な成長力・自己治癒力を最大限に発揮できるように援助するのが、来談者中心療法です。
ロジャーズと来談者中心療法
ロジャーズは、勤勉で保守的なクリスチャンの家庭に生まれました。
青年期は牧師になることをめざし神学校で学びましたが、しだいに真実の探求と実際的な対人援助職に惹かれるようになりました。
コロンビア大学教育学部に籍を移したロジャーズは、臨床心理学と教育心理学を学び、児童相談所のサイコロジスとして就職しました。
児童相談所での実践からロジャーズは「何がその人を傷つけているのか?どの方向に進むべきか?何が重大な問題なのか?そこにどんな経験が秘められているのか?を知っているのはクライエント自身である」ことに気づき、来談者中心療法の基礎ができました。
この実践についてはロジャーズの著書「問題児の治療」にまとめられています。
そして、ロジャーズはオハイオ州立大学で、アメリカで最初のカウンセリング教育と研究に携わるようになりました。
ここで出版されたのが、「カウンセリングと心理療法」です。
従来の患者を来談者(クライエント)と記述し、面接過程におけるクライエントの主体性を重視しました。
この方法は非指示的アプローチと名付けられました。
まもなくロジャーズはシカゴ大学のカウンセリング・センターに移り、12年間過ごしました。
神経症の人々に対する来談者中心療法が確立され、カウンセラーのあり方、カウンセリングの過程やその効果について科学的に実証する研究成果が発表され、高く評価されました。
この時期に、ロジャーズはアメリカ心理学会の会長をつとめ、科学における貢献に対して賞を得ました。
ロジャーズによって、来談者中心療法、カウンセリングがアメリカにおいて認められ広がったといえます。
その後のロジャーズは、ウィスコンシン大学に移りました。
統合失調症の人々へのカウンセリングの有効性を実証しようと挑戦しました。
しかし、思うような成果が得られなかったそうです。
ロジャーズは、保守的な大学組織に失望し、カリフォルニア州の西部行動科学研究所に移りました。
研究所で、エンカウンター・グループの研究に取り組みました。
その後ロジャーズは、研究所から独立して独自に人間科学センターを作り、社会や教育に対しても人間中心主義の立場で活動を行って晩年を過ごしました。
エンカウンター・グループ
エンカウンター・グループとは、数日間の合宿形式で10名前後がひとつのグループとなり、1~2名のファシリテーター(グループを活性化する役)を加えて数時間のセッション(率直に語り聴きあう)を繰り返す集中的グループ体験のことをいいます。
来談者中心療法の本質
来談者中心療法の本質については、「無条件の肯定的関心」「共感的理解」「自己一致」が大事なキーワードになります。
無条件の肯定的関心
無条件の肯定的関心は、日常の人間関係ではなかなか実現しません。
それは、相手の存在そのものを、何の条件をつけることなく、そのまま肯定し尊重していくことです。
私たちは、心の内面に否定的な感情を抱いています。
このように否定的な感情をも含めて個人の「存在」を肯定しつつかかわっていくことが肯定的関心と考えられています。
誤解されやすいことなのですが、相手の行動や言動をすべて肯定することではありません。
相手の行動や言動が自分にとって認められないときは、カウンセラーは率直に伝えることが必要であります。
そのことが、むしろ相手の人格に対する肯定的関心につながります。
実際のカウンセリング場面では、語られる内容にカウンセラー自身の価値観に合わないことがあります。
自分自身の価値観で相手を評価することなく、かといって、安易な同調もすることなく、相手自身の体験について共感的理解をめざすことが肯定的関心です。
共感的理解
ロジャーズは、「私たちが、ごくあたりまえに、他の人や他のグループが言ったことについて賛成か反対かを判断したり、評価したりすることが、相互的な対人コミュニケーションの主たる障壁となってしまう」と述べています。
日常場面で共感的理解は困難です。
対して、ロジャーズのめざす相互的コミュニケーションとは、相手の気持ちを理解するコミュニケーションことをいいます。
そのためには、相手の身になること、相手はそれをどう感じているのかを想像することが求められています。
カウンセラーは、ある人の言葉を聴きながら、その人がその言葉を発する源となった内的体験、心の内側で感じている感情について思いいをはせ、想像をめぐらせます。
これが共感的理解の本質です。
言葉を聴くだけでなく、言葉の源にある内的体験、感情を聴き取ろうとする聴き方をロジャーズは傾聴と呼んでいます。
その想像のためには、自分自身の心の内側で動いているさまざまな感情を感じ取れることが大事になってきます。
カウンセラーは、自分自身の心の内面に向けられたアンテナを通して、クライエントの心の中の周波数を見つけとらえていくのです。
共感とは、相手の主観的体験を尊重し、これを可能な限り推論していく試みといわれています。
ロジャーズの定義によると、共感とは「相手の内的枠組みを、あたかもその人自身であるかのごとく、しかもごとくという条件を失うことなく、正確に、かつ付随する感情と意味を伴って感じとること」とあります。
「ごとくという条件を失うことなく」は、私たちがけっして相手自身になりかわることができないことを明言しています。
相手を固有の人格をもつ個人として尊重することと安易な一体化はむしろ対極にあります。
受容することは「相手の意を察して」「その望みをかなえてやる」と誤解されがちです。
実は、相手が一人前の人間であることを尊重する真の受容においては、相手が自分の望みをきちんと自分の言葉で伝え、こちらもひとりの人間としてその望みにどう向き合えるかを言葉で伝えていくことが大切です。
相手の望みに応えられないとしても、望みがかなわない苦しさを理解しようとすることこそが真の受容であり、共感的理解へとつながっていきます。
自己一致
カウンセリングは、カウンセラーの共感的理解を通して、クライエントが自己一致をめざすことを助けるともいえます。
私たちは、自分自身で認めるのがつらい体験や感情が存在します。
これらの体験や感情を否定することは、こころの安定を守るための防衛とも理解できますが、ロジャーズはこれを「体験と自己との不一致」と呼びました。
ロジャーズは、例として階段恐怖症の例をあげています。
学生は、階段恐怖のために、試験会場に入ることができません。
しかし、その学生が本当に恐れているのは、会談ではなく試験に失敗して自分が無能であることが明らかになることでした。
この場合、学生は「無能であることが明らかにされるのを怖がっている」、本当の自分を認めることができない不一致の状態であるといえます。
自己一致するには、カウンセラーは、クライエントの真の体験、感情に焦点をあてて、クライエントは自分自身の体験、感情に目を向けていくことで、統合し自己一致をめざすことができます。
自己一致はあくまで理想目標であって、完全に達成するのは容易ではなく、カウンセラーも生涯をかけて探究していく存在です。
自分自身のありのままのこころに忠実に、自分自身の否定的な側面からも目を背けることなく、誰よりも自分自身を偽らないという純粋さが自己一致をめざすのに必要とされていることです。
カウンセリングの6条件
- 心理的な関係の成立している
- クライエントは不一致の状態であり、傷つきやすく、あるいは不安である
- カウンセラーは自己一致しており、統合されている
- カウンセラーはクライエントに無条件の肯定的関心がある
- カウンセラーはクライエントに共感的理解している
- カウンセラーの無条件の肯定的関心と共感的理解がクライエントに最低限伝わっている

まとめ
来談者中心療法は、ロジャーズによって生み出された心理療法です。
カウンセラーの基本となっており、クライエントとの信頼関係を築くうえでも大事な考え方です。
「無条件の肯定的関心」「共感的理解」「自己一致」を完璧にすることは、とても難しいことです。
完璧にすることを目指すのではなく、少しずつできることをしていくことが大切だと私は思います。
カウンセリングに関わらず、誰かに相談を受けたら、来談者中心療法の方法で相談を受けると相手も話しやすく、あなたへの信頼も高くなるので、来談者中心療法や傾聴について学んでみてはいかがでしょうか。
参考文献
「よくわかる心理臨床」
「ロジャーズ選集(上)(下)」
「ロジャーズクライエント中心療法」