記憶力を高めたいと思っている人は多いと思います。
多くの人は、記憶したいことを繰り返し行って覚えようとしているのではないでしょうか。
確かに、記憶することはできますが修行するみたいでツライですよね。
イメージ化で記憶力を高めることができます。
記憶の仕組みから記憶の残る方法を紹介します。
情報が記憶に変わるまで
記憶は、記銘、保持、想起という3つの過程に分けることができます。
第一段階は、体験したことを「覚える」ことで、記銘(符号化)と呼ばれています。
第二段階は、体験したことを覚えたことを、一定期間「覚えておく」ことで、保持(貯蔵)と呼ばれています。
覚えておく間に覚えたことを忘れたり、記憶内容が変わったりすることもあります。
第三段階は、覚えておいた情報を「思い出す」ことを想起(検索)と呼ばれています。
記憶の三段階の例として、登山でたとえてみます。
登山をして「気持ちがいいな」という体験し印象づけられることは記銘です。
登山を終えて、登山のことを覚えておくことが保持です。
しばらくして、登山のことを思い出し「登山楽しかったな」と体験を思い出すのが想起です。
本当に、記憶することができたかどうかは実際に想起してみないとわかりません。
そのため、心理学の研究においては再生法や再認法といったテストが用いられます。
どのようなテストであるかは、たとえば「下記の選択肢かの中から適切な言葉を抜き出し、文中のカッコの中に記入しなさい」という問題形式で、思い出す手がかりがあるのが再認法です。
選択肢がなく手がかりがないのが再生法です。
どちらが思い出しやすいかは、一般的に再認法だと言われています。
テストでの例ですが、問題に選択肢があったほうが答えに迷うことはありますが勉強したことを思い出しやすいのではないでしょうか。
手がかりが「ある」か「ない」かで思い出しやすさが違うことが分かります。

記憶の貯蔵庫は3つ
記憶のシステムは複雑で、さまざまな考え方があります。
現在、一般的な説と言われている記憶を複数の段階からなるシステムとする説を紹介します。
記憶は、感覚記憶、短期記憶、長期記憶の3つからなっています。
目や耳といった感覚器官から取り込んだ情報は、感覚記憶(感覚レジスター)という貯蔵庫にごく短い時間だけ保存されます。
感覚記憶の段階では、きわめて大量の情報が保存されていますが、視覚情報は約0.5秒、聴覚情報は約5秒で消失していきます。
そして、大部分は消失してしまいます。
感覚記憶のうち、大切なもの、興味をひくものは短期記憶という次の貯蔵庫に移されます。
短期記憶での貯蔵期間は約15~30秒間と短く、貯蔵量も7つくらいと言われています。
貯蔵時間を延ばす方法にリハーサル(何度も繰り返す)によって可能であるとされています。
リハーサルされた情報は、やがて長期記憶という貯蔵庫に送られます。
長期記憶は大量の情報を半永久的に保持できる貯蔵庫で、貯蔵庫の中でさらにエピソード記憶や意味記憶などの種類に分類されていきます。

【実験】短期記憶はリハーサルを経て長期記憶へ
①関連のない名詞(いぬ、電車、リンゴなど)を20語を順番にカードで提示する
⇩
②実験参加者に声を出してリハーサルしながら記銘してもらう
⇩
③リハーサル回数が多いほど名詞の再生率が高かった
リハーサル回数が多いと記憶に残り長期記憶化が進んだと言えます。
短期記憶とマジカルナンバー7
短期記憶の保持期間は約15~30秒とされています。
たとえば、街中であるお店の電話番号を目にして気になったので電話をかけようというとき、電話番号を入力する間だけ覚えておくような記憶のことです。
保持できる時間は短く、電話をかけたら忘れてしまいます。
覚えていようと思ったら何度も口に出して復唱する「リハーサル」をすると可能になります。
多くの実験結果から短期記憶の容量は7±2個であると言われています。
この数字のことをマジカルナンバー7と呼ばれています。
マジカルナンバー7はアメリカの認知心理学者のジョン・ミラー論文のタイトルから名付けられたそうです。
マジカルナンバーの研究は続いていて、ミズーリ大学の心理学教授のネルソン・コーワンがマジカルナンバー4±1であると発表し、現在の短期記憶のマジカルナンバーとして広まっています。
多くの文字や数字を覚えるにはコツが必要です。
文字をチャンク(まとまり)にしてみましょう。
たとえば「味噌汁」をそのままのまとまりで理解すれば1チャンクです。
ひらがなで「み・そ・し・る」とすれば4チャンクです。
漢字でも「味噌・汁」と分けて理解すれば2チャンクです。
チャンクを応用してみましょう。
「IMFWHONHKNTTWTO」と並んだアルファベット15文字を1つのかたまりとして覚えるのは難しいです。
かたまりを5つにしてみるとどうでしょうか。
「IMF・WHO・NHK・NTT・WTO」となります。
どこか見覚えのあるかたまりにすると、覚えやすくなったのではないでしょうか。
1つのかたまりで覚えるのではなくて、かたまりを分けることで覚えやすくなります。
能動的に働くワーキングメモリ
短期記憶のうち「ある作業に必要な間だけ必要な記憶を意識の上に展開させておく」といった機能を指してワーキングメモリ(作業記憶)といいます。
たとえば、電話かけるわずかな時間だけ電話番号を覚えていたり、長い文章を話すときに筋道を間違えずに相手の反応を見ながら話したり、計算をするとき途中で出てきた細かい計算の答えを覚えながら次の計算に進むといったことができるのは、ワーキングメモリのおかげです。
単なる記憶の貯蔵庫というよりは、理解や思考、行動のさなかに必要な記憶を一時的に思い出し、活用するという能動的な機能がワーキングメモリだと言えます。
長期記憶と種類
長期記憶は、短期記憶と比べはるかに多くの情報を長時間にわたり保持できる記憶の貯蔵庫のことです。
長期記憶には、言葉で説明できる宣言的記憶と、動作により記憶していく手続き記憶に分かられます。
宣言的記憶はさらにエピソード記憶と意味記憶に分けられます。
エピソード記憶とは、「小さい頃は田舎で川遊びをしたな」「水が冷たくて気持ちがよかった」などといった、体験をした時の時間や場所、感じたことまでを特別なエピソードとして記憶することをいいます。
一方、意味記憶は身の回りのことや一般意識としての記憶のことをいいます。
「トマトは赤い」「日本の首都は東京」など学習によって獲得されたものです。
宣言的記憶が言葉で説明できるのに対し、手続き記憶は言葉ではうまく説明できない動作や技能の記憶のことです。
たとえば、自転車の乗り方を言葉にするのは難しいですが、一度身につければまず忘れることはないです。
「身体で覚えている」のが手続き記憶です。
変容する記憶
一度長期記憶として貯蔵された情報はなかなか失われず、生涯にわたって保持されることもあります。
しかし、記憶が変容してしまうこともあります。
つまり、実際に体験したこととは違った内容で覚えていたり、体験しなかったことをあたかも体験したかのように記憶してしまうのです。
記憶が後から変容することを事後情報効果といいます。
たとえば、事件の目撃者の記憶が捜査官の質問方法によって変わることがあるように、不適切な手がかりを使って記憶を検索しようとすることで起こるものと考えられています。
アメリカの認知心理学者のロフタスは変容に関する実験を行いました。
学生たちに車の衝突事故の映像を見せた後で、学生たちに事故の様子を尋ねました。
学生に尋ねる質問は、「車がぶつかったとき、どのくらいのスピードが出ていましたか」と聞くのと、別の学生には、「車が衝突したとき、どのくらいのスピードが出ていましたか」というように少し言葉を変えて聞きました。
学生たちが記憶を呼び覚ますときの手がかりを変えたのです。
結果は、「車が衝突したとき、どのくらいスピードが出ていましたか」と質問された学生は、「車がぶつかったとき、どのくらいスピードが出ていましたか」と質問された学生よりも車のスピードを速く見積もる傾向が出ました。
「衝突した」と「ぶつかった」という単語が学生に与えたイメージの違いであると考えられています。
このように何かを思い出そうとするとき、不適切であるとそれに合わせるかたちで記憶が再構成されてしまうのです。
ロフタスの実験
①学生たちに車の衝突事故の映像を見せる。
⇩
②学生たちにそれぞれ言葉を変えて質問する。
Aの学生「車がぶつかったとき、どのくらいスピードが出ていましたか」と聞いた。
Bの学生「車が衝突したとき、どのくらいスピードが出ていましたか」と聞いた。
⇩
③学生たちの答えは違っていた。
Aの学生:「時速60㎞くらい」
Bの学生:「時速80㎞くらい」
⇩
④1週間後、同じ学生たちに「映像の中でガラスが割れたのを見ましたか」と質問する。
実際にはガラスは割れていない。
Aの学生:「見た」と答えた学生 14%
Bの学生:「見た」と答えた学生 32%→「衝突」のイメージが残っていると考えられる
記憶力を高めたり残すには

人は記憶するときに、ある感動的な体験がともなっていると、強く記憶の残ると言われています。
たとえば、興味のある分野については、ワクワク楽しみながら勉強できて、苦労しなくても頭に入ってくるという経験をしたことはないでしょうか。
これは頭の中で起こる記憶のプロセスと関係しています。
私たちが感覚器を通じて受け取った情報は、2通りの経路によって脳に残ります。
一つ目は大脳皮質を経由して大脳辺縁系にある海馬へと運ばれ、記憶として定着するルートです。
視覚や聴覚によって受け取った外からの情報は、このルートが使われる。
二つ目は、大脳皮質を経由せずに、直接海馬に運ばれるルートです。
このルートが使われるのは、喜怒哀楽などの感情や本能にまつわる情報が記憶されるときです。
一つ目のルートと違い大脳皮質を経由せずに直接海馬に送られるため、より強く記憶に残るとされています。
海馬に定着した記憶がどのような構造になっているのかも大切なことです。
記憶の構造を図式化したものを意味ネットワークといいます。
記憶は、「犬」「干支」「ペット」といった関連するもの同士で結びつき、ネットワークを作っています。
特に、関連の大きいもの同士が近くで結びつき、記憶として強く定着することをプライミング効果といいます。
感動や体験による記憶は残る
喜怒哀楽など感情や本能に関わるように、感動や体験だと記憶が強く残ります。
勉強なら、楽しみながら学ぶ工夫をするのもありですし、友人と切磋琢磨して互いに意識しながら学ぶことも方法として有効です。
また、意味ネットワークをふまえて、情報を覚える方法は、意味あるものに結びつけたり、わかりやすいものに変換したりすることがポイントとなります。
たとえば、歴史で「応仁の乱」は何年に起きたかを覚えるには、「人の世むなし応仁の乱」で1467年と覚えます。
関係ない「人の世むな」と「1467」をこじつけて覚える記憶術です。
ちなみに、「覚えているはずなのに出てこない」といった状況をメモリーブロックと呼びます。
メモリーブロックの場合は、意味ネットワーク上の近しい情報を思い出すことで手がかりとなって、記憶を思い出すことができるようになります。
たとえば、「かつおぶし」という言葉をど忘れしたとして、「猫」「だし」「にぼし」といった言葉がヒントになって思い出すことができます。
イメージ化による記憶術
- 場所法
よく知っている場所やイメージできる場所を思い浮かべ、その場所と覚えているもののイメージを組み合わせて、視覚情報として覚えていく方法です。 - 語呂合わせ方法
「1185(イイハコ)作ろう鎌倉幕府」など、歴史の年号を言いやすくイメージできる言葉に変える方法です。 - 物語法
覚えたいものを組み込んだだストーリーを考え、言葉としてイメージの両方で印象づける方法です。 - 頭文字法
覚えたいものの頭文字だけを取り出す方法です。 - ペグワード法
数字と関連するものを決めて、イメージを手がかりにして覚える方法です。
まとめ
記憶をよくするには、感動や体験を利用して感情や本能に働きかけることが有効です。
さらに、意味ネットワークを使いイメージで記憶すると、イメージから思い出すことができるので、イメージによる記憶術も利用したいですね。
自分にあった記憶術で、勉強や仕事がより楽しくできますように、この記事が役に立てば幸いです。
参考文献
「史上最強カラー図解プロが教える心理学のすべてがわかる本」