新しいことにチャレンジしたものの、やる気が出ないことはありませんか?
努力しても成果がでないとか、何でチャレンジしようと思ったのだろうなど考えだしたらつらいですよね。
人はなぜ無気力になるのでしょうか。
人が無気力になる仕組みについて紹介します。
無力感を学習する
セリグマンとメイヤーは、無気力の状態を調べるのに、動物の実験で観察しました。
実験をするために行ったことが、犬を電気ショックを受ける箱に入れました。
そして、パネルを押せば電気ショックを止められるようにしました。
自分で電気ショックを止めることができる経験をさせた犬(統制可能群)と、自分では電気ショックを止めることができない経験をさせた犬(統制不能群)に分けました。
2つの群の犬と、電気ショックを受けなかった犬(電気ショックなし群)を加えて実験しました。
実験の内容は、3つの群の犬を電気ショックを受ける箱に入れるのですが、箱の壁は飛び越せる高さであり、逃げることが可能にしました。
さらに、電気ショックの前に予告信号が鳴るようにしました。
この箱で、犬たちの回避する様子を観察しました。
実験の結果、統制可能群と電気ショックなし群の犬は、予告信号が鳴ると電気ショックを避けるために、箱の壁を飛び越して逃げることができるようになりました。
統制不能群の犬は、予告信号が鳴っても電気ショックから避けようとせず、何もしないでうずくまっているだけでした。
セリグマンらは、統制不能群に起こったこと現象を「学習性無力感(learned helplessness)と呼びました。
この実験で起こった学習性無力感は、統制不能群の犬は自分で行った反応(パネルを押すこと)が不快な刺激(電気ショック)をコントロールできないことを何度も経験しているうちに、自分の行動が結果に伴わないことを学習しました。
そのため行動すれば、結果を変えられるような状態になっても、自分からは何もしない無気力な状態に陥ったと考えました。
つまり、セリグマンらの理論によると、行動と結果が伴わずどうしたらいいのか判断できないと無気力感に陥るということです。
学習性無力感は人にも生じると、実験や観察で報告されています。
たとえば、解決不可能なアナグラム課題(文字を並び替かえて単語を作る課題)を解く経験をした者と、アナグラム課題を経験していない者で、解決可能な課題を解くのを比べました。
アナグラム課題を経験した者は、正答率や動機づけが低下し、気分の落ち込みも見られました。
このように、無力感を学習したのです。
働きかけには成果が欲しい
無気力な現象は、行動が結果に伴う随伴経験(相手から良い結果が返される経験)の少ないこと関連すると言われています。
随伴経験に対して、行動が結果に伴わないような経験を非随伴経験といいます。
中学生の無気力な現象を調べたものに、「主観的随伴経験が中学生の無気力感に及ぼす影響ー尺度の標準化と随伴性認知のメカニズムの検討、教育心理学研究、2003、51、298-307」があります。
中学生を対象に、無気力感と随伴経験・非随伴経験との関連を調べています。
調査は、主観的随伴経験尺度を用いて、生徒が自分の随伴経験と非随伴経験の程度を答える方法で行われています。
随伴経験は、「困っているとき友人に助けを求めたら、力になってくれた」など、自分の働きかけに対して、良い成果だったと思える経験を項目で尋ねました。
また、非随伴経験は、「友達のために思ってしたことが、逆に誤解された」など、自分の働きかけは成果がなかったと思った経験を項目で尋ねました。
各項目は、経験したことが「よくある」から「全くない」までの4段階で回答してもらい、得点化しました。
生徒は、担任の先生の行動評定によって、無気力感傾向の高い群(無気力感高群)と低い群(無気力感低群)に分けられ、この2群で、随伴経験と非随伴経験の得点を比較しました。
結果は、非随伴経験得点は2群で差がなかったのに対して、随伴経験得点は無気力感高群の方が低群より低かったのです。
つまり、中学生の無気力感は、「やってもうまくいかない」といった非随伴経験の多さよりも、「やってみたらうまくいった」といった自分の働きかけの成果を感じるような、随伴経験の少なさから生まれる可能性があると報告されました。
自分が行った行動に対して、良い結果が返ってくると無気力感は感じにくくなり、働きかけには成果が欲しいものであると考えられます。
成功経験も努力の結果であることが大切
ドウェックは、算数の学習意欲を同じくらいなくしている子ども(8~12歳)を、成功経験群と再帰属(行動の結果の原因を考え直す)訓練群に分け、25日間、毎日算数の問題を解く補習をしました。
成功経験群は問題数がやや少なく設定され、必ず成功するようになっています。
再帰属訓練群は問題が解けない回が2.3回設けられていて、できないのは努力不足のためで努力すれば結果が伴うこと、問題を解けないと、あとどれだけ解けばよいかが知らされます。
そして、失敗しても次回は努力の結果、成功するという経験が繰り返されます。
補習の前と途中と補習の後の合計3回、無気力感の程度を調べました。
結果は、成功経験群は、失敗するとすぐに無気力感に陥ってしまい、成績の向上はわずかでした。
再帰属訓練群は、失敗してもあきらめなることがなくなり、成績が向上し、無気力感が軽減しました。
つまり、失敗は努力不足のせいだと、失敗の原因を考え、努力して成功をおさめるといった経験を積むことが、失敗の克服や無気力感の低下や成績の向上につながったと考えられます。
成功経験もただ成功するだけでなく、努力と結びついていることが大事であると言えます。
何でもやってあげるのはやさしさではない
お年寄りや子どもに対して、ついつい「やってあげる」ことはありませんか。
親切心なので悪いことではありません。
ただ、何でもやってあげることについては、本当のやさしさなのでしょうか。
まかせると元気になる
まかせると元気になるデータがあります。
イエール大学のジュディス・ロディンは、老人介護施設で実験をしました。
もともとこの施設では、スタッフが何でもお年寄りのためにやってあげていました。
洋服を着せたり、食事の準備をしてあげたり、部屋の掃除をしてあげたり、入浴のお手伝いをしてあげたりなど。
ロディンは、スタッフがやっていることを、そっくりお年寄りのみなさんにやってもらうことにしました。
もちろん、できないことについてはスタッフがお手伝いしました。
また、スタッフがやるべき仕事を、「○○さんは、植物の水やりね」「○○さんは、お風呂掃除をお願いね」といった具合に、どんどんまかせるようにしました。
結果どうなったというと、18か月後には、施設のお年寄りたちは、以前よりも元気になっていました。
それまで、何もすることなく、ただ一日中座ってテレビを見ているだけだったお年寄りたちが、積極的に庭に出るようになったり、畑で野菜を植えるようになったり、部屋の片づけをしたりするようになりました。
また、社交性も高まり、他の人との会話も増えました。
それまでは、廊下ですれ違っても挨拶もしなかったのに、会話するようになったのです。
さらに、実験前の施設での平均死亡率が年間25%だったものが、15%に減りました。
自分でやらせるやさしさ
お年寄りだから、あるいは、身体が少々不自由だからといって、他の人が代わりに何かをしてあげるのは、本人にとってあまりいいことではないようです。
むしろ、自分でできることは何でもまかせてしまうというやさしさもあります。
このことは子育てにもいえることです。
たとえば、子どもがかわいいからといって、子どものために何でもしてあげる親いませんか。
子どものためなら何でもしてあげたい気持ちはわかりますが、結局は子どものためになりません。
親が、子どものために何から何まで手伝うことで、子どもはどんどん無気力になっていきます。
たとえ子どものためでも、子どもにまかせる勇気をもって、してあげたい気持ちをグッとこらえて見守ることも大事です。
また、仕事でも同じです。
部下のやるべきことを上司が代わりにしていると、部下はいつまでも成長しませんし、やる気もなくなってしまいます。
「やれることはどんどんやらせたほうがその人のためになる」というやさしさもありますので、まかせることができることはまかせてみましょう。
まとめ
人は無力感を学習します。
たとえば、仕事の場合で、大きな仕事を任されたものの、うまくこなすことができず、上司の期待に応えられなかった苦い経験が、他の仕事に対する意欲がなくなり、できるはずのことが、できなくなることはよくある話だと思います。
落ち込んだ気持ちを、もとに戻すことは大変ですよね。
こんな無気力状態のときに、「うまくいった成功体験」と「今までの努力は無駄ではなかった」ことがあると、だいぶ救われますよね。
自分自身で乗り越えないといけない部分もありますが、周りの環境も大事だと思います。
周りが暖かい気持ちで、チャレンジを後押しをしてくれるのと、してくれないのとでは大きく違いがあります。
自分のチャレンジはもちろん、他人のチャレンジも応援できるようになりたいですね。
参考文献
「よくわかる心理学(やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)」
「身近にあふれる心理学が3時間でわかる本」