人が他者から影響を受けることはさまざまあります。
「人に見られているから」という意識から、常識的な行動をしたり、「赤信号みんなで渡れば怖くない」と、1人ならしないことも、グループになれば反社会的行動を起こす場合もあります。
人が集まって群集になったときの人の心理はどのようなことが起こっているのかを紹介します。
人は群れると性質が変わる
群集とは、多くの人が一か所に集まり群がることをいいます。
群集は、攻撃的になったり、災害などから逃げようとしたり、バーゲンなどに殺到したり、騒ぐだけが目的といった群集になる場合があります。
このような群集になるには理由があります。
- 群集の中にいると人は周囲と自分の区別がつかなくなり、同じ行動をとってしまいがちになる。
- 興奮して合理的な判断ができなくなり、雰囲気に流されてしまう。
- 匿名でいられるため、遠慮がなくなり、問題行動を起こしても責任を追及される恐れが少ないと考える。
恐怖から逃れようとする混乱状態を指してパニックといいますが、群集行動は情報不足や扇動によって生じるパニックの結果であるとされています。
パニックに結びつく3つの「情報」
パニックを起こすといわれているものに「デマ」「流言」「噂」があります。
いずれも根拠が薄く、真実性は低いという特徴があります。
デマ、流言、噂を区別すると以下のようになります。
①デマ:悪意の中傷や嘘など、意図的にねつ造された情報。
②流言:必ずしも意図的に流されたものではなく、自然に広まる情報。
③ 噂 :比較的少数の知り合いで同士の間で流通する情報。
重大な事態が起こっているにもかかわらず公式の情報が曖昧だと、デマ、流言、噂が広まります。
また、群集の内部で広まると、最初の情報とはまったく違ったものになる場合が多いといわれています。
群集と集団の違い
【群集】
不特定多数の集まりであり、個性が失われている状態。
- 一時的なもの
- 役割が分化していない(非組織的)
- 成員が影響し合わないことが多い
【集団】
それぞれの役割が明確で、お互いの「顔が見えている」状態。
- 一定期間以上
- 役割が分化している(組織的)
- 成員が互いに影響し合う
責任の分散
群集の中で反社会的行動が生じやすい原因の一つに、匿名性があります。
大勢の人々に混じって自分の名前が特定できない状況になり、その場面の一員であっても自分自身の独立性を薄れさせた状態が、匿名性の高まった状況といえます。
匿名性の高い状況では、ひとりの行動が集団全体に与える影響を判定しにくいため、「自分以外の誰かが責任をとってくれるのだろう」という責任の分散が生じやすくなります。
他者を頼ることができ、他者のせいにすることができるために、手を抜いたり、反社会的な行為を行うことが容易にできてしまうのです。
目の前で暴力事件を目撃した場合、警察を呼べるのが自分1人であったなら、少しくらい面倒だったとしても多くの人は通報するのですが、目撃者がたくさんいる場合には、「誰かが通報してくれるだろう」と考えて、通報しない傾向がでるといわれています。
援助行動について調べたラタネ(Latane,B.)とダーリィ(Darley,J.M.)の研究結果があります。
困っている人を助ける行動に出るのは、助けられる立場の人が多いほど低くなることがわかっています。
援助行動について、困った時はお互いさまとわかっていても援助できない理由とは?で紹介していますので、あわせてご覧ください。
自覚症状と反社会的行動の抑制
群集の中で、反社会的行動が生じやすい背景には、自分に向けられた意識の有無も関係しています。
私たちは、起きている間、常に自分のことを意識しているわけではありません。
電車の座席でスマートフォンでSNSのチェックをしているとき、注意は画面に向けられています。
ふと顔を上げると離れた座席に知り合いが座っているのに気づいたとたん、自分の今日の服装や表情や姿勢など、自分がどのようにみられているのかという自分自身に注意が向けられてます。
意識は、自分の外に向けられているか、自分に向けられているかに二分されています。
自分自身に注意が向かい、自分を注目の対象としている状態を、自覚症状と呼んでいます。
ウィックランド(Wicklund,R.A)とデュヴァル(Duval,S.)は、自覚状態になった人は自覚症状にない場合と異なった社会的行動をとると指摘しました。
人は自覚症状になった際、そのときの状況において最も関連度・重要度の高い側面で自己評価を行うようになります。
自分がその場で理想とする状態に一致していない場合には、負の感情が出てしまいます。
このため、自覚症状になった人は評価基準に自分を合わせようと行動調整し、これが社会的促進や反社会的行動の抑制につながるのです。
反対に、自分に意識が向かない状況では、その抑制がなくなります。
このことから、群集の中にあって自分自身への注目が低下することが、反社会的行動が生じやすくさせる一因になると考えれています。
没個性化
フェスティンガー(Festinger,L.)らは、個人が集団に埋没し、「自分」というものが喪失してしまった状態を没個性化と呼んでいます。
個人がその場面に埋没して自己の存在感が希薄になることで、普段は抑制されている反社会的な言動が現れると分析しています。
没個性化現象を扱った実験として、ジンバルド(Zimbardo,P.G.)の実験があります。
実験参加者に、別室にいる人物に電気ショックを与えるように指示しました。
電気ショックを与える実験参加者に、頭からフードかぶせ誰かわからない匿名状態にした場合と、目立つ名札をつけた識別可能にした場合とで違いを観察しました。
結果は、匿名状態の没個性化した方が、電気ショックの継続時間が長いといった攻撃性が高くなりました。
また、プレンティス・ダン(Prentice-Dunn,S.)とロジャーズ(Rogers,R.W.)は、没個性化を生じさせるのは、自覚状態の中でも、特に私的自己意識の低下だと指摘しています。
自己意識には、私的自己意識(自分の感情や態度など他人が直接知ることができないような内的な側面に向けられる注意)と公的自己意識(自分の容姿や行動など他人から見られている側面に向けられる注意)があります。
集団との一体化や興奮などで私的自己意識が低下すると、人は個人内の規範や社会的基準に一致した行動をとろうとしなくなり、没個性化が生じます。
一方、匿名性や責任の分散によって生じるのは公的自己意識の低下です。
公的自己意識の低下も反社会的行動を生じやすくさせますが、この状態でも人は自分の行為の意味についてはわかっているので、没個性化とはいえないと解釈しています。
まとめ
匿名性があると、抑制がききにくくなり、攻撃的な自分がでるとのことです。
自分とバレなきゃいいという考えがあるのかもしれません。
人に行った行為は、自分に返ります。
匿名か匿名でなかろうが、自分の行動に責任をもちたいですね。
参考文献
「よくわかる心理学(やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)」
「史上最強カラー図解プロが教える心理学のすべてがわかる本」