「いま、ここ」を生きている「ゲシュタルト療法」とは

heart心理学

ゲシュタルト療法は「いま、ここ」での体験を扱います。
なんだかふわっとした感じがしますが、自分自身について気づき、統合するゲシュタルト療法について紹介します。

ゲシュタルト療法について

ゲシュタルト療法は、フィリッツ・パールズ(Pearls,F.S.)が提唱した心理技法です。
そして、人間心理学の代表的な流れのひとつとして位置づけられています。

ゲシュタルト療法は、概念から離れて純粋な気づきや直接的経験を重視し、「いま、ここ」で体験していることを扱います。
その目的は、クライエント(相談者)が統合された人格、「全体としてのその人」です。
それは、人間が依存から独立、未熟から成熟へと向かう過程であり生活のなかで経験された感情を自分自身の感情として感じ、表現し、抱えることができるようになる過程です。
そこでは、比喩、空想やイメージ、姿勢や身体の動き、演技などを使いながら、気持ちを身体で感じ、表現することが重要な手段となります。

パールズとゲシュタルト療法

ゲシュタルト療法は、精神分析と実存主義をルーツとして、パールズの独創性をもってこれらを統合した技法です。

パールズはベルリンで医学を学び、二度の世界大戦下の世界において、さまざまな臨床家、理論化、思想家などと出会っています。
その出会いがパールズの人格を通してゲシュタルト療法としてできあがったといわれています。

パールズはベルリンでライヒ(Reich,W.)らの精神分析を受け、精神分析家の資格を得ています。
また、ゲシュタルト心理学の立場にたって脳損傷の兵士の治療をしている研究所で助手として働いた経験より、個人が有機体としての統合を志向する過程に注目するゲシュタルト心理学を学んでいます。

その後、パールズは南アフリカのヨハネスブルグに移り、精神分析研究所を設立しています。
第二次世界大戦後は、ニューヨークに渡り、ホーナイ(Horner,K.)やフロム(Fromn,E.)、トンプソン(Thompson,C.M.)らの支援でウィリアム・アランソン・ホワイト研究所でも臨床の場をもち、活動の拠点をニューヨークとしています。

ルーツとなった精神分析論

パールズは、精神分析を深く学び実践しています。
しかし、パールズは忠実に踏襲していたわけではなく、積極的に批判し、修正を加えながら、パールズの理論として取り入れています。

たとえば、口唇期、肛門期、幼児性器期といった幼児性欲理論は取り入れながら、自我、イド、超自我といった心的装置論は受けいれず、人間をひとつの全体として機能するものと考えていたのはその例です。

自我は、パールズの理論では「その人の今ここでの経験」、一方、無意識は「現在気づいていないこと」としてみなされ、精神分析をよりわかりやすい言葉で説明されています。

哲学とゲシュタルト心理学

ゲシュタルト療法は、さまざまなカウンセリング技法のなかでも、哲学に近い存在といえます。
実存主義はゲシュタルト療法のルーツとなっています。
人間は自らなにを拒否して、なにを受け入れ、なにを考え、どのように行動するかを、自ら選択し、その選択にはそれぞれの責任を有する存在であることを強調します。

そこで「~をしなければならない」という消極的な取り組みは、「私は他の選択によって起こる結果を望ましいとは思わない。だから、これをすることを選ぶ」という積極的な取り組みに変化することが期待されます。

また、推量や過程を使わずに「いま、ここ」という随時の経験に重点をおいて真実や知識を求める現象学は、ゲシュタルト療法のもうひとつのルーツです。

そこでは他者の判断ではなく、その人自身しか経験できないものがもっとも重要視され、現象をありのままにとらえることがめざされています。

ゲシュタルト療法の実際

ゲシュタルト療法の癒しの過程は、クライエントとカウンセラーが、ともに生きている存在として出会い、積極的にお互い対話してかかわっていくことが求められています。

ゲシュタルト療法の基本をまとめているものがあります。

ゲシュタルト療法の原則

  1. 現実に生きることと、過去や未来について懸念するのではなく、今、現在を心がけること。
  2. 「ここ」に生きること、現在目の前にあるものに対処し、今ここにないものとは対応しない。
  3. 想像することをやめ、現実を体験すること。
  4. 不必要な思考をやめること、頭の中で今、ここで必要とされていないことをごたごたと考えるのでなく、実際にあるのものを味わい、自分の目でみること。
  5. 操作したり、正当化したり、裁量を下すかわりに、ストレートに表出すること。
  6. 不快なことや、苦痛なことに対しても、快感の場合と同じように身をゆだね、それを経験すること。
    自分自身の気づきに制約を加えたり制限ををしないこと。
  7. 自分以外のものから与えられる「~すべきだ」「~でなければならない」というような命令を受けいれぬこと。
    自分はそれに「耐えているのだ」といったような自己イメージをもたぬこと。
  8. 自分自身の行動、感情、思考に責任をもつこと。
  9. 自分自身をあるがままに受けいれ、それでよしとすること。

出典:Naranjo.C.1970 Present-centeredness: Technique, prescription and ideal. Gestalt therapy now. Science and Behavior Books. 六角浩三(訳)1989 ゲシュタルト療法 心理療法ハンドブック 福村出版

ゲシュタルト療法では、さまざまな技法が用いられていますが、基礎となっているのはカウンセラー自身が「自分らしく生きていくこと」です。

主要な技法としては、言葉によって意識を変える技法があります。
たとえば、「私は~ができない」という言葉を「私は~をしない」とおきかえることで、受け身から自律性へと意識を変える方法があります。

また「チェア・テクニック」と呼ばれるものがあります。
自分が座っている椅子と自分の前に椅子を置き、椅子の間を往復しながら、それぞれの自分になって対話をする手法です。

夢分析を技法のひとつです。
夢に対する解釈を加えるのではなく、夢を見た人に夢に登場したすべての部分になって「一人称」「現在形」で記述します。
自分自身のいろいろな部分に気づき、その統合をめざす手法です。

まとめ

ゲシュタルト療法は「いま、ここ」での体験を大事にしています。
目に見えない部分の自分を出したりすることが、ピンとこないとなかなか理解しにくい部分はあると思います。
いま、ここのありのままの自分を体験してみたいのなら、ゲシュタルト療法はいかがでしょうか。

参考文献
「よくわかる心理臨床」

「ゲシュタルト・カウンセリング」

「ゲシュタルト療法ーその理論と実際」