子どものことで親が「子どもの問題」を相談することは、よくあることだと思います。
では、本当に「子どもの問題」だけをとらえたらいいのでしょうか?
子どもだけでなく親も含めた「家族療法」について紹介します。
問題はどこにあるのか
子どもが不登校になった、家の中で暴力を振るう、などで困って両親か父親か母親のどちらかが相談機関を訪れるとします。
そして、親は子どもの状況を話し、どうしたら「子どもの問題」が改善するのかのアドバイスを求めます。
ここまで見ていると、子ども想いで良い親であると思われるかもしれません。
「子どもの問題」を視野を広げてみていきます。
ここで目を向けたいのは、親は多くの場合「子ども問題」だと言うことです。
子どもがそのような問題行動を起こしているのは、これまでの子どもとの触れ合い方に自分の性格の問題が関係しているのではないかや、子どもがそのなかで生活している自分たち夫婦の間の問題が関係しているのではないかといった、子どもだけを見て相談している親自身のことに気づいていないといわれています。
子どもがなんらかの問題行動をしている場合、原因は子どもの問題だけでないのがほとんどです。
子どもと家族、一人ひとりの関係の在り方が問題を抱えていると考えられます。
家族療法では、問題がでているその人だけの問題としてみるのではなく、その人は家族の一人ひとりの関係の在り方の問題を、家族を代表して現しているとみます。
つまり家族療法は、問題のあるその人を変えようとするのではなく、家族のなかの一人ひとりの間の関係の在り方に変化を促そうと試みることです。
家族システムの歪みとみること
家族というのは、家族の中の一人ひとりがかかわり合って動いているひとつの生きたシステムです。
その生きたシステムの歪みを、家族の中のある人が引き受けて病になったり問題行動という形で出てくることは考えられることです。
そうすると、もし家族の代表であるその人の病や問題行動だけが消えたとしたら家族システムはどうなるのでしょうか。
家族という生きたシステム全体の歪みにはまったく手がつけられていないとすれば、その歪みを代表して表現していた人が治ってしまうと、全体のシステムは歪みを表現する場所を失います。
そして、その歪みのエネルギーは出口を求めて暴走することになります。
たとえば、家族の他の人が病気になったり、事故にあったりするかもしれないですし、夫婦の関係が破局するかもしれません。
家族の中で、その人が歪みを代表して表現していることで、家族というシステムが危ういながらも均衡を保っているということです。
そのため家族療法では、問題を表現しているその人より、家族というシステム自体に目を向けています。
家族療法の歴史と特徴
家族療法では、家族というシステムを家族における一人ひとりの「関係」の在り方から生まれるものとみていますが、「関係」から現象を見るという点からもはっきりしているように、家族療法の歴史は精神分析から始まり、精神分析から独立してして確立されてきました。
家族療法が独立から発展してきたのは、1960年代のアメリカです。
家庭の問題が社会問題化する一方で、多くの家庭は長期にわたる心理療法を受けるだけのお金の余裕はありません。
時代は、「より直接的」に家族に働きかけ、「より短い期間」で家族の問題に変化を生み出す治療法を求めていました。
時代の求めが家族療法を発展させたといえます。
家族療法は、立ち上げた人たちの考えと実践の違いから、いくつかの学派があります。
共通していることは、より直接的に家族の一人ひとりにかかわっていく、短期間で家族に変化を促す、という家族療法の土台は共通しています。
家族にアプローチする方法はさまざまあります。
カウンセラーが家族のなかに入り、家族のメンバーになって一人ひとりの間にかかわりをもって、家族に変化を促す方法や、家族全員に相談室まで来てもらい、そこにカウンセラーが入って家族の普段の様子を再現し、歪みを分析して変化を促す方法もあります。
これらは、直接的なかかわりが強調された治療法の例です。
家族療法と個人療法の違い
精神分析などの個人療法では、カウンセラーがかかわるのはひとりのクライエントです。
子どものことで親が相談に来た場合は、カウンセラーにとってクライエントは親です。
クライエントの親自身に変化が生まれることを目標にし、家族全体に変化が生じるのは、親の変化の結果として起こります。
個人療法に対して家族療法は、カウンセラーにとってクライエントは家族というシステムです。
子どものことで親が相談に来た場合は、カウンセラーは親を通して、つねに家族全体を自分のクライエントとみます。
そして、つねに家族のシステムに変化が生じることを第一の目標とします。
この違いが家族療法と個人療法の違いであり特徴です。
まとめ
家族療法は、目の前にいる人をみるのではなくて、家族全体をみるのが特徴です。
家族を代表して問題が現れてしまった歪みを修正して変化を促すのが家族療法です。
子どものことで悩んでいるのなら家族療法はおすすめです。
ただ、家族全員の協力がないとうまくいきません。
家族で問題に取り組む姿勢が変化を生み、新たな家族の形ができます。
参考文献
「よくわかる心理臨床」
「システムズアプローチによる家族療法のすすめ方」
「家族療法」