言語を使わなくてもコミュニケーションはできます。
言葉にできないことも芸術を用いれば、治癒としての可能性は広がります。
芸術療法について紹介します。
芸術療法の概要
芸術療法は、心理療法と非常に近いものでありながら、心理療法とは別個の一領域です。
芸術療法の定義は、「さまざまな芸術的な媒介物を用いた治療の総称であり、患者はその媒介物を通して治療に導入されるきっかけとなった問題や悩みを表現し取り組む。治療者と患者はセッションにおいて作成された作品を理解しようとする同伴者である」です
したがって、心理療法において芸術作品を媒介とする場合は芸術療法になります。
心理療法と芸術療法は、ともに治療場面において患者/クライエントが心的体験を表現することを重視します。
相違点は、芸術療法は表現活動や媒介としての作品の存在は欠かすことのできないものである一方、心理療法においては、必ずしも作品が媒介となるわけではありません。
芸術療法は、患者の心的体験の表現そのものを重視し、心理療法は、カウンセラーとクライエントの人間関係が中心であるといえます。
芸術療法の中にも「芸術心理療法」と呼ばれる関係性重視の学派もあります。
芸術療法の多様性と歴史
現在の日本芸術療法学会では、音楽、絵画、文芸、ダンス、箱庭、心理劇、陶芸、園芸など幅広いジャンルでの芸術療法が扱われています。
活動の指針や作品についてどのように理解するかについては、既存の精神医学や臨床心理学、哲学の理論が用いられることが多くなっています。
主に使われる理論は、精神分析学、分析心理学、自己心理学、実存主義、ゲシュタルト心理学、来談者中心療法、行動主義的アプローチ、認知心理学などです。
芸術療法は、医師だけでなく作業療法士、心理士、看護師などが発展に貢献し、活動分野も医療系、福祉系、教育系など幅広く広がっています。
芸術療法の実際
芸術療法の有益性と要注意点で中井久夫は、芸術療法のメリットとして、二者関係のなかに第三の対象を導入し、関与しながらの観察が可能になることをあげています。
心理療法はカウンセラーとクライエントのなかの二者関係において営まれるために、二者の間の相互交流においてはカウンセラーが当事者です。
そのため、過程を「自由に浮かび、均等に漂う」注意力でとらえることは難しくなります。
しかし、芸術療法において、カウンセラーが患者の作成あるいはパフォーマンスの過程を見守っている状況においては、質の高い「関与しながらの観察」ができます。
たとえば、箱庭療法では、箱庭という第三の領域においてこころのドラマが展開するため、カウンセラー・患者間に直接的な転移が比較的起こりにくいといわれています。
箱庭が「自由で守られた場」として二重の治療の器として機能しています。
音楽やダンス、心理劇、陶芸、園芸など多くの芸術療法においても、活動のための設備と作品そのものが治療の器として機能します。
治療の器として、治療室の設定および環境、作品制作過程におけるカウンセラーの動き、作品をどのように扱い、保存していくかなどの要素も大きな治療的意味をもちます。
芸術療法の直接性
芸術療法において扱われるのはイメージの世界です。
私たちは、日常の生活で言葉を主に用いますが、イメージは言葉に限定されることなく、視覚的、聴覚的、嗅覚的、味覚的、触覚的、運動のイメージなどさまざまな形があります。
多様な方法でイメージを表現することで、言語を介さない直接的なコミュニケーションが実現します。
たとえば、感情的体験を言葉以外に伝える方法は、絵に描いたり、音楽にしたりなどして、表現や伝達ができます。
芸術は、イメージを多様な形にして表現する力があります。
言語で表現できないことも芸術を使ってイメージすることなら可能です。
まとめ
芸術療法は、幅広いジャンルで扱われています。
人は言葉だけでなく、絵や音楽などでコミュニケーションができます。
また、芸術療法は作品ができるまでの過程やできあがった作品で、心理状態をみることができます。
芸術療法はさまざまありますので、興味があれば調べてみてはいかがでしょうか。
参考文献
「よくわかる心理臨床」
「芸術療法の理論と技法」